特集 開業論――はじめての組織運営・援助実践ガイド
社会課題の解決に取り組む――開業地域臨床モデル
木下 直紀
1
1臨床精神分析センターひこばえ
pp.605-609
発行日 2025年9月10日
Published Date 2025/9/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25050605
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カウンセリングを終えたクライエントが死んでしまいそうだと訴えている。初めてではないけれど,それなりに切迫している。私はとりあえず,帰宅途中にメールするよう伝える。そういう「宿題」は孤独を少し和らげるから。/クライエントが退室したら,今日,訪問予定だったはずの訪問看護ステーションに急いで状況を共有する。すぐに短い返事が来る。ご家族にも連絡する。/その日のうちに訪問看護ステーションから顚末の報告がある。メールで少し状況を振り返る。/翌週末には定例の関係者会議があって,今回の件を含めたここ1カ月の状況を訪問看護ステーションとディスカッションする。/そうして,また翌月の支援に臨んでいく―
多少のアレンジを加えていますが,これが私の開業臨床の一幕です。関係機関と密に連携しながら仕事をしています。開業のカウンセリングルームを起点にして実践領域がオフィスの外にも広がっていることが伝わるでしょうか。
ここでは援助実践論のなかでもソーシャルワーク的な実践を紹介していきます。個室面接モデルに基づく開業個人臨床ではなく,多職種連携・地域連携モデルに基づく開業地域臨床のお話です。不勉強ながら,このような視点での論考は他で見たことがありません。私はこの開業地域臨床に心理専門職としても,ソーシャルベンチャーとしても大きな可能性を感じています。できれば,これを読んでいる皆さんにもトライしていただいて,経験談を共有してもらえるとうれしいです。それが心理職の専門技術が地域に還元され,心の痛みや苦しさに優しく,それを支える人たちが大切にされる社会の創出につながっていくことを願っています。

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