特集 「信じたい」という心理―心の病から陰謀論まで
「わたしは特別……」―自己愛性パーソナリティ障害
斎藤 環
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1つくばダイアローグハウス
pp.723-727
発行日 2024年11月10日
Published Date 2024/11/10
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I はじめに
今回,筆者が提案されたテーマは「自己愛パーソナリティ障害(NPD)」であったが,臨床家としてDSMの診断基準を満たす水準のNPD患者には,実はほとんど出会ったことがない。時折紹介されてくる患者にこの診断がついている場合もあるが,その多くは「主張が強く面倒くさい患者」以上の意味を持つとは考えにくかった。それゆえ筆者自身は,自らこの診断をつけた経験がほとんどない。ついでに言えば「パーソナリティ障害」の診断も,その必要性を感じたことがほぼ皆無である。あまり強く主張する意図はないが,個人的にこの概念は,治療者側の陰性感情の表出以上の価値はないのではないかと疑っている。
そうした基本姿勢にもかかわらず,筆者は本稿で「自己愛」について論じようとしている。その意図は大きく分けて以下の二つである。
(1)おとしめられがちな「自己愛」概念の再評価/(2)「自傷的自己愛」,すなわち自己否定の形を取った自己愛概念の提唱
ただし紙幅も限られているので,(1)については概略を述べるにとどめ,(2)については少し詳しく触れることとしたい。

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