連載 臨床心理学・最新研究レポート シーズン3
トラウマ・インフォームド安定化治療(TIST)―自殺企図・自傷などの自己破壊的行為への新たなアプローチ
浅井 咲子
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1アート・オブ・セラピー
pp.637-642
発行日 2024年9月10日
Published Date 2024/9/10
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I はじめに
これまで神経科学の研究は,早期のトラウマ体験が自律神経系の慢性的な調整不全,特定の出来事との関連が見出せない感情による圧倒,そして衝動性の問題を引き起こすことを明らかにしてきた。トラウマに苦しむ人々は,その強烈で圧倒的な症状が記憶の状態であることを知らずに,本能的にそれらを鎮静化するため危険行為に及ぶ。アドレナリンやエンドルフィンといった神経化学物質を分泌させるために自傷したり,自己統制感を得るために自殺を企図したり,感情を麻痺させ変性意識状態になるために拒食や過食,嗜癖,物質乱用を行ったりしている。数週間,数カ月,数年にわたる入院治療が必要となる場合もあり,発達的,社会的,職業的に成長する機会を制限する代償として安全が確保されてきた。
本稿で紹介するトラウマ・インフォームド安定化治療(Trauma-Informed Stabilization Treatment : TIST)は,危険行為や嗜癖の治療のために開発された。その目的は,個人の安全性を高め,施設などへの入院・入所の依存を減らし,自律神経の調整,情動耐性,ストレスの管理能力の向上を促進することにある。
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