特集 がん検診とリスク層別化検診の課題
総説 がん検診のあるべき姿
職域でのがん検診のあるべき姿
立道 昌幸
1
1東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学
キーワード:
▶職域のがん検診は,福利厚生の一環として実施されてきたことが課題の一因である.
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▶職域のがん検診の実施主体である,保険者や事業主のがん検診の目的については,死亡率減少効果を主たる目的とせず,医療費削減,労働生産性の確保としている.
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▶福利厚生が目的のため,事業評価として精度管理の概念に乏しい.
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▶「職域におけるがん検診に関するマニュアル」の発出時の議論では,職域でのがん検診は,対策型か任意型かの議論に終始した.
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▶日本産業衛生学会が,産業保健職からの視点で「職域におけるがん検診に関するマニュアル」の効果的運用を検討するワーキンググループの報告書を発表した.
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▶職域における指針に基づくがん検診の推進や精度管理実施を阻害する要因としては,第一に,感情的反発があり,第二に,現状の福利厚生を削減することへの社員の不同意があり,第三に,検診機関ごとのがん検診の判定に関する非統一がある.
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▶職域におけるがん検診推進に向けた方策としては,(1)保険者がん検診精度管理システムの早期の社会実装によるがん検診の実態把握による自助作用,(2)後期高齢者納付金の加算減算におけるインセンテイブの拡大,(3)がん検診結果の統一,(4)指針や精度管理を実施するがん検診に対する公的費用補助が望まれる.
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▶保険者がん検診精度管理システムを用いた,望まれるがん検診像の定着することが重要である.
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▶本来の職域のがん検診は,「労働」を曝露としたリスクに基づくがん検診の制度設計が必要である.
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▶職業によるリスク層別化検診には,職業とがん罹患に関する知見の集約が不可欠である.
,
▶職業に関するがんについては,集積性に注意が必要.その解決にも保険者がん検診精度管理システムの社会実装によるがん罹患の職場のマッピングを行う必要がある.
Keyword:
▶職域のがん検診は,福利厚生の一環として実施されてきたことが課題の一因である.
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▶職域のがん検診の実施主体である,保険者や事業主のがん検診の目的については,死亡率減少効果を主たる目的とせず,医療費削減,労働生産性の確保としている.
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▶福利厚生が目的のため,事業評価として精度管理の概念に乏しい.
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▶「職域におけるがん検診に関するマニュアル」の発出時の議論では,職域でのがん検診は,対策型か任意型かの議論に終始した.
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▶日本産業衛生学会が,産業保健職からの視点で「職域におけるがん検診に関するマニュアル」の効果的運用を検討するワーキンググループの報告書を発表した.
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▶職域における指針に基づくがん検診の推進や精度管理実施を阻害する要因としては,第一に,感情的反発があり,第二に,現状の福利厚生を削減することへの社員の不同意があり,第三に,検診機関ごとのがん検診の判定に関する非統一がある.
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▶職域におけるがん検診推進に向けた方策としては,(1)保険者がん検診精度管理システムの早期の社会実装によるがん検診の実態把握による自助作用,(2)後期高齢者納付金の加算減算におけるインセンテイブの拡大,(3)がん検診結果の統一,(4)指針や精度管理を実施するがん検診に対する公的費用補助が望まれる.
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▶保険者がん検診精度管理システムを用いた,望まれるがん検診像の定着することが重要である.
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▶本来の職域のがん検診は,「労働」を曝露としたリスクに基づくがん検診の制度設計が必要である.
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▶職業によるリスク層別化検診には,職業とがん罹患に関する知見の集約が不可欠である.
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▶職業に関するがんについては,集積性に注意が必要.その解決にも保険者がん検診精度管理システムの社会実装によるがん罹患の職場のマッピングを行う必要がある.
pp.1322-1328
発行日 2025年9月1日
Published Date 2025/9/1
DOI https://doi.org/10.50936/mp.42.09_006
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はじめに
「職域でのがん検診」という表現は,対照的に「住民でのがん検診」との差異を想起させる.この両者の相違を考察することは,わが国における成人保健のあり方全体を再考するうえで極めて重要である.そもそも,がん検診を含む成人保健施策は,職域・住民の区別なく,科学的根拠(エビデンス)に基づいて提供されるべきであり,職域においては職業に関連するリスクを考慮した追加的配慮がなされる必要がある.その意味では,「職域におけるがん検診」は,住民に対するがん検診と制度的に整合性を保ちながら,リスクに即した形で実施される必要がある.しかしながら,日本においては,労働安全衛生法(以下,安衛法)に基づき事業主の実施する産業保健が成人保健を担ってきた歴史的経緯がある.その結果,がん検診の実施有無が企業や保険者の裁量に依存する不均衡な構造が生じている.現在では,成人保健の提供主体が事業主,保険者,自治体と多様化しており,それぞれの役割が不明確なまま混在している.このような状況は,制度の整理と再構築の必要性を強く示唆している.

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