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「あの人はいわゆるパーソナリティ障害ですよね?」嘱託産業医をしていると,職場関係者からこのように聞かれることもあるが,いつも返答に困ってしまう。パーソナリティ障害は「その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り,広範でかつ柔軟性がなく,青年期または成人期早期に始まり,長期にわたり変わることなく,苦痛または障害を引き起こす内的体験および行動の持続的様式である」とされ,猜疑性,シゾイド,統合失調型,反社会性,境界性など10以上に下位分類される(DSM-5)1)。一方職場関係者が表現するパーソナリティ障害は,対人関係,自己像,および感情の不安定と,著しい衝動を示す様式とされる境界性パーソナリティ障害を一方的にイメージしていることが多く,病名をつける根拠も精神医学的には誤っていることが多い。では境界性に限らず,さまざまなパーソナリティ障害の労働者は職域に多いのであろうか。
大阪産業保健総合支援センターとともに,2000年から2004年に職域に提出された精神疾患病名の休職診断書の枚数を2006年に,2010年から2014年の同様の枚数を2016年に,大阪府下の比較的大きな事業所250以上の協力を得て2回の調査検討を行った2,3)。2000年に精神疾患病名で休職した事例は100事業所あたり72.0件であり,そのうちうつ病・抑うつ状態が42.4%であった。それが5年後の2004年には休職事例数は3.5倍,うつ病・抑うつ状態の労働者は4.9倍に増加していた。2004年のうつ病以外の診断書病名は,不安症/神経症11.2%,統合失調症3.7%,適応障害3.3%,躁うつ病2.5%,アルコール関連障害2.1%で,その他不眠症,自律神経失調症,心身症なども報告された。2010年から2014年の5年間の休職診断書は,2010年は100事業所あたり314.2件であり,そのうちうつ病・抑うつ状態は66.0%であった。それが5年後の2014年には休職事例数は1.5倍,うつ病・抑うつ状態の労働者は1.2倍に増加していた。うつ病以外では,適応障害7.6%,不安症/神経症3.5%,躁うつ病2.7%,統合失調症2.3%,アルコール関連障害1.0%などであった。これらの結果からは,2000年から2014年の15年間では,精神障害の診断書枚数は6.4倍に増加し,診断名としてはうつ病圏内が多かったが,パーソナリティ障害という診断書は認められなかった。
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