State of the ART
脂肪酸代謝を標的とした乳癌の治療戦略
川島 雅央
1
1オックスフォード大学腫瘍学講座低酸素・血管新生グループ客員研究員
pp.17-22
発行日 2016年8月10日
Published Date 2016/8/10
DOI https://doi.org/10.34449/J0096.02.02_0017-0022
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「ポイント」・脂肪酸は癌細胞によって膜の材料やエネルギー,炎症性メディエーターの材料など多彩な用途に活用される。・脂肪酸の新規合成の活性化は乳癌の初期段階から観察され,その阻害は一定の抗腫瘍効果を示す。・低酸素や転移などの特定の状況下では,癌細胞は脂肪酸の供給を外部からの取り込みにより依存するようになる。・飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸のバランスは膜の性質を変化させ,癌の生理機能に影響を与える。・脂肪酸代謝がもつ酸化ストレスからの保護作用の重要性が注目を集めている。「はじめに」われわれ人間の体を構成する細胞は,ミトコンドリアを内部に取り込むことで酸素呼吸を獲得し,効率的なエネルギー産生が可能になった。生命活動の維持にはこの酸素呼吸が必須であり,正常な細胞は必要な酸素と栄養素を得るためにきわめて秩序だった配列をとっている。しかしながら,無秩序な細胞増殖が生じる癌組織では,必然的に多くの低酸素領域や低栄養領域が形成されることになる。癌は正常細胞とは異なったエネルギー代謝パターンを獲得することで,異常な環境に適応して増殖を続けていく。
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