- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
坪田 本日は,動物行動学のご研究で知られる菊水健史先生をお迎えし,ドライアイとの関連も含めた興味深い話を伺って参りたいと思います。先生は2022年に,イヌが飼い主との再会時に情動の涙を流すことを発見し,イヌは情動の変化に伴い涙の分泌量が増えること,および涙の分泌にはオキシトシンが関与しているという素晴らしい発表をなされています。まずは菊水先生,先生のご経歴についてご紹介いただけますか。菊水 ありがとうございます。私は獣医としては端くれというか,動物の行動学,つまり動物の行動の背景やメカニズムを知りたいという一心でこの分野に入りました。最初はマウスを用いて親子やオス・メスの関係や,さらに集団が大きくなったときにどういう社会行動を取り,どういう制御を受けているかを研究してきました。ただ,マウスにおいてはヒトのような社会性がみられるわけではなく,複雑なところは解析が難しいことがわかってきました。ちょうどその頃,イヌの認知科学の研究が進み,ヒトとの社会的シグナルのやりとりに関してはチンパンジーよりも長けているという論文が出始めていました。そうしたなか,私は2000年頃からプライベートでイヌを飼い始めて,その社会性の高さに驚き,イヌも研究対象にしようと思ったのです。坪田 マウスはマウス同士の社会性についてでしたが,イヌの場合はイヌとヒトの社会性についてですね。菊水 そういうことです。イヌは地球上で一番長い,2万〜5万年といわれるヒトとの長い共生環境を培ってきた動物です。それだけの期間をかけてイヌが獲得した対ヒトの社会能力があって,それは格好の研究対象だと思ったわけです。それからイヌの行動学を勉強しなおすなどして研究を続け,最終的にヒトとの関係をみるところに至っています。
Medical Review Co., Ltd. All rights reserved.