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医師は,患者からの症状の聴取や所見,さまざまな検査データを参考に,自身のもつ知識と経験を基に診断および治療方針を決定する.さらに診療の適性を判断しながら必要に応じて治療内容を変更し,患者に合った最適な治療を選択している.そこには長年にわたる教育と知識,経験の集積が必要である.人工知能(AI)はかつて人工頭脳ともいわれ,その明確な定義はないが,これまで2度のAIブームが到来し,徐々に現実社会への実装が進んできた.しかしながら,医療への応用は取り扱う画像を含む情報の解析に非常に複雑な計算を要するためその処理能力が十分でないことやデータ収集に多大な労力を必要とし,収集のためのインフラが整っていなかったことなどから,現実的な成果を挙げるまでには至らなかった.このような状況のなかで,2012年頃から第3次AIブームが始まり,現在大きなブレークスルーが到来している.コンピュータ技術の急速な発展による演算の高速化と情報通信技術(ICT)の進歩によるデータ収集能力の向上,さらに機械学習であるニューラルネットワーク,特に深層学習の登場と関連するさまざまなアルゴリズムの開発がその推進力となっている.ここではこの第3次AIブーム以降の医学へのAIの活用について記述する.AI技術のこのような進歩の結果,近年ではゲームなど特定の分野ではAIが人間の能力を凌駕することが明らかとなり,AIの現実社会への実装が急激に進んできた.この傾向は医療分野にも及び,現在ではAIがさまざまな医療分野に進出してきている.眼科領域でのAI活用の大きなブレークスルーは2016年に発表された糖尿病網膜症(DMR)の画像診断に関するものである1).この研究では,約7,500人の15万枚の眼底写真を用いて深層学習を行い,DMRの鑑別能を検討した.その結果,AUC0.99程度の高い鑑別能をもってDMRを識別できることが呈示され,眼科領域でのAIの有用性が明らかとなり,緑内障や加齢黄斑変性症など他の眼科疾患への応用も始まっている.AIの得意分野は画像や数値情報などのデジタル化しやすいデータを用いた解析であり,今後は緑内障を含む眼科分野においてさらに進出することが考えられる.本稿では,緑内障におけるAIの活用について現状と近未来の活用,さらにその課題について記述する.
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