連載
脳におけるエストロゲンの見えざる作用 第37回 ―脳の性の実態―
武谷 雄二
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1東京大学名誉教授/医療法人社団レニア会アルテミスウイメンズホスピタル理事長
pp.72-76
発行日 2023年6月1日
Published Date 2023/6/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.30.02_0072-0076
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これまでは性別を端的に識別するのは身体的特徴であることは自明とされてきた。しかし近年,「私は男性である」「私は女性である」といった自らの性をいかに認識しているか,すなわちジェンダーアイデンティティ(gender identity;GI)が注目されるに至った。ジェンダーとは社会的,文化的な生活を送るうえでの男女の役割,思考様式,立ち居振る舞い,男女の関係性などを意味する。社会集団のなかで生存しているヒトでは否応なしにGIと向き合って生活せざるを得ず,社会生活を営むうえで身体的性よりも上位にあると考えられるようになった。そのため性特異的な身体的特徴を本人が望む性別に合致させるような施術が医療行為として正当化されるようになっている。では,GIとは脳の構造や機能とどのように結び付いているのだろうか。その前提として,男女の脳は異なっているということになるが,科学的な裏付けがあるのだろうか。最近,男女を規定する脳の仕組みを解明する研究が精力的になされている。この背景には,純粋な科学的探究心から男女の脳の違いを究めたいという目的以外に,昨今性別不合を表明する人々が増えており,彼らに対する理解を深め,支援の手を差し伸べたいという思いもある。これまでの研究によると,脳全体が男女に識別できるのではなく,いずれの脳も各々の要素が混在している。しかし部分的ではあるが,性別に特異的な形態,脳内のネットワーク,神経機能などが存在し,このことが性に特有な行動,認知,価値観,心理,精神病理などと関係していると考えられるようになってきた。本稿では男女の脳の特徴について,GIとの関連において解説を加えたい。
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