連載
脳におけるエストロゲンの見えざる作用 第22回
武谷 雄二
1
1東京大学名誉教授/医療法人社団レニア会アルテミスウイメンズホスピタル理事長
pp.81-85
発行日 2019年9月1日
Published Date 2019/9/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.26.03_0081-0085
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お産の痛みはどこから生ずるのだろうか。最大の痛みは子宮の収縮によるものである。さらに産道を構成する子宮頸部に圧力がかかり,それが伸展される時にも痛みが生ずる。また児頭が下降する際に膀胱や腸管が圧迫されることも痛みの原因となる。ヒトを除く霊長類の産道は円筒形である。産道と児頭の大きさはヒトではほとんど変わらないが,ヒト以外の霊長類では産道の大きさにかなりゆとりがあることが多い。そのため分娩に際し,児の頭はストレートに下降する。一方,ヒトの産道は直立歩行することにより狭くなり,かつ歪んだ円筒形になってしまった。そのうえ児の頭は脳の発達により大きくなった。そのため産道を通過するときには児頭自体が変形しかつ特徴的な回旋をすることを余儀なくされた。その結果,ヒトのお産はほかの霊長類よりも時間がかかり,母親により苦痛を強いることになった。つまりヒトへと進化したことに伴い“産科学的ジレンマ”が生ずることになった*。では,非妊娠時には失神してしまうほどの陣痛の痛みを妊婦は耐えることができるのは,どのようなしくみがあるのだろうか。本稿では,陣痛の痛みを和らげるための内因性のメカニズムを眺めてみたい。
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