連載
脳におけるエストロゲンの見えざる作用 第26回
武谷 雄二
1
1東京大学名誉教授/医療法人社団レニア会アルテミスウイメンズホスピタル理事長
pp.75-80
発行日 2020年9月1日
Published Date 2020/9/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.27.03_0075-0080
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哺乳動物の登場とともに子育てにおける親の役割が劇的に変化した。仔/子の成長が単に哺乳に依存するというのではなく,仔/子と親の関わり方も同時に激変したと思われる。つまり,乳腺の発育と子育ての行動とはセットで進化したと思われる。子育てにオス/男性が協力するようになったのも哺乳類の特徴の1つであるが,すべての動物種のオス/男性が一様に子育てに関わるものではない。当該種の子孫の成長効率が最大となるようにオス/男性は育児を担当している。哺乳動物およびヒトの一部ではオス/男性が育児に積極的に関与しているが,全く育児を行わない動物種もある。オスが育児を行わない種ではそのほうが,結果として成長効率が高くなるという理由による。メス/女性は仔/子の誕生に先立って,妊娠・出産・授乳などに伴うホルモン変化が母性の開花の呼び水となる。特に授乳を通じて母親であることを実感し,それにより母性の発現が促される。しかし,このような経験を経ないオス/男性でもパートナーが妊娠すると,母親と同様な脳の変化が生じ,徐々に母親の脳と類似の変化がみられるようになる。このような変化は妊娠中のパートナーと密接に接することで呼び起こされる。また妊娠,出産に伴うメス/女性に特徴的なホルモンの変化と似たようなことがオス/男性でも起こってくる。この意味において,父親の脳とはいわば“女性化”した脳と言い換えることもできる。近年父親の育児への直接的関与の必要性が高まりつつあることに後押しされ,父親の脳に関する研究の成果が次第に蓄積しつつある。本稿では父親と母親の脳を比較しつつ,父親となることで脳がどのように変わるのかを眺めてみることにする。
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