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脳におけるエストロゲンの見えざる作用 第28回
武谷 雄二
1
1東京大学名誉教授/医療法人社団レニア会アルテミスウイメンズホスピタル理事長
pp.75-79
発行日 2021年3月1日
Published Date 2021/3/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.28.01_0075-0079
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女性のみならず男性にも子育てに与る潜在能力が存在しており,パートナーの出産とともにその能力が開花するように男性の脳は作られているということを前号で述べてきた。男性の子育てへの協力は,子孫の繁栄に直結するものである。そのため父性の開花するメカニズムはおそらく生物学的に揺らぐことなく刷り込まれているものであり,個々人の性格や生き方などに左右されるものではないと思われる。このような前提のもとに,父性の発現の底流にある現象を考えてみたい。子育てには子への愛着や愛おしさといった情動や視覚,聴覚,嗅覚といった感覚,あるいは栄養を与える,外敵から守るといった行動など多面的な機能を臨機応変に発揮する必要がある。このような全身の諸機能を統合的に発動することを指令する物質としてはホルモンがもっとも考えられる。母親の育児行動にはプロラクチンやオキシトシンというホルモンに導かれていることはよく知られていた。プロラクチンは,これまで乳汁産生と母性行動に関与するホルモンとしてよく知られている。その名前も乳汁を作るホルモンという作用に由来している。近年プロラクチンは男性の子育てにも関与しているという研究が次々と報告されるようになった。プロラクチンは種を越えて300種類以上の生物作用を発揮することが知られている1)。プロラクチンの多様な作用に鑑み,父性行動にプロラクチンが関わっているとしても驚くべきことではない。本稿では父性とプロラクチンとの関係についてこれまでの知見をまとめて解説したい。
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