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脳におけるエストロゲンの見えざる作用 第25回
武谷 雄二
1
1東京大学名誉教授/医療法人社団レニア会アルテミスウイメンズホスピタル理事長
pp.57-60
発行日 2020年6月1日
Published Date 2020/6/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.27.02_0057-0060
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これまで子育ては専ら母親の役割であると思われてきた。しかし,女性の社会進出に伴い男性の育児への関与は避けられないものとなってきた。生殖を直接担うジェンダーである母親は,妊娠,分娩,授乳に伴うホルモン環境の変化が母性の発現と密接に関連している。これまで親の脳に関する研究は母親がほとんどであり,実際に相当数の男性が子育てに関わっているにもかかわらず,父親の脳の神経内分泌学的調節機序は等閑視されてきた。母親ほど劇的ではないが,新たに父親となった男性の脳もホルモン刺激を受けていることが,最近ようやく明らかになってきた。では生殖への関わりが乏しい父親の場合,パートナーが自分の子を産んだことで,はたしてどのようなホルモンが父親の脳に作用するのだろうか。また父性に関わるホルモンはどのようなメカニズムで作用するのだろうか。昨今の男性の育児への関与の重要性に鑑み,父性行動や子育ての心性の背景にある生物学的事象を理解することは,どのようなかたちで父親が子育てを担当することが,子にとって,あるいは父親本人および家族にとって望ましいかということを考えるうえで大変大切なことである。今回は父親の脳の特性およびそれをつくりあげるメカニズムを,内分泌変化に焦点を当てつつ眺めてみたい。
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