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自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorder:ASD) は,およそ100人に1人の割合で生じる,先天性の脳機能発達障害と考えられている1)。その発症率は増加しており,全米における最新の統計では68人に1人という報告がある2)。しかし,脳機能上の異常から行動の問題へと至る具体的なメカニズムはまだ解明されていない。このメカニズムを解明しようと,これまでに多くの齧歯類モデルと候補となる遺伝子が提案されている。いずれも症候群のある一面を再現し説明しようとするもので,ASDを網羅的に再現した動物モデルはまだ確立しているとはいえない。ヒトにおけるASDは病因が複雑であり,症状にも多様性がある。遺伝的要因はきわめて高率で発症に関与していると考えられているが,近年になって環境要因の重要性が改めて認識されてきており,環境化学物質,薬物,母体の感染(炎症)などによる環境因子についての研究も行われている3)-5)。自閉症の診断は,専門医による診察が不可欠で,精神障害の診断と統計マニュアル第5版 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 5th:DSM-5)や世界保健機関 (World Health Organization:WHO) の国際疾病分類第10版 (International Classification of Diseases 10th:ICD-10) の診断基準により,①対人社会性の質的な障害,②言語コミュニケーションの質的な障害,③強いこだわり行動をもつとされている。原因が不明なために,バイオマーカーによる検査法がなく,臨床症状によって診断される。診断のために行われる問診,面接,検査はすべて行動を評価するということに関わっている。このようにASDは診断基準が行動に依存する。よって,さまざまなASDモデル動物が作出されているが,モデル動物としての信頼性や妥当性6)を評価するためにも,行動による検証が欠かせないものとなっている。本稿では,ヒトに近縁な霊長類を用いたモデル動物の行動評価の実際について述べていく。「KEY WORDS」モデル動物,コモン・マーモセット,VPA,高次社会認知機能
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