- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
低HDLコレステロール(HDL-C)血症は冠動脈疾患の独立した危険因子であることは,数多くの疫学研究によって証明されてきた。そのメカニズムとして,HDLやその構成アポ蛋白(アポ)であるアポA-Ⅰは,血管壁に蓄積した余剰のコレステロールを抜き出し,肝臓へ運んで胆汁酸として処理・排泄する“コレステロール逆転送系(reverse cholesterol transport;RCT)”で,コレステロールの運搬役として働く。HDLやアポA-Ⅰによって引き抜かれたコレステロールはHDL上でエステル化され,血漿コレステロールエステル転送蛋白(cholesteryl ester transfer protein;CETP)によって超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein;VLDL),低比重リポ蛋白(low-density lipoprotein;LDL)などのアポB含有リポ蛋白へ転送され,これらが肝臓のLDL受容体によって取り込まれる。われわれは角膜混濁を有する高HDL-C血症の2例を発見し,そのなかからCETP欠損症を見出し,そのリポ蛋白の量的・質的・機能的異常を報告した。さらに,CETP欠損症の遺伝子解析によりCETP欠損症が集積する秋田県大曲地域の疫学調査結果から,CETP欠損に起因した高HDL-C血症は長寿症候群ではなく,むしろ動脈硬化性疾患が増加する可能性を世界に先駆けて提唱した。しかしながら,われわれが警鐘を鳴らし続けたにもかかわらず,HDL-Cを上昇させ,LDLコレステロール(LDL-C)を低下させる目的で,CETP阻害薬が数多く世界中で開発されてきた。臨床試験が行われた結果,トルセトラピブ,ダルセトラピブ,エバセトラピブ,アナセトラピブなどのCETP阻害薬は心血管イベント抑制効果が証明されないか,脂肪組織蓄積性などのために,事実上ほとんどすべてのCETP阻害薬は開発中止となっている。一方,LDLの酸化を強く抑制する脂質異常症治療薬として従来から使われてきたプロブコールは,HDL-Cを低下させるにもかかわらず家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia;FH)のアキレス腱黄色腫や皮膚黄色腫を消退させる。プロブコールはCETPを増加させることによりHDL-Cは低下するが,HDLはコレステロール含量が少なくコレステロール引き抜き能が亢進しており,いくつかの臨床研究でプロブコールの抗動脈硬化作用が報告されてきた。本稿ではCETP阻害薬の開発の失敗を教訓に,動脈硬化性疾患の発症予防のためのHDLを標的とした薬剤の開発の方向性について最新情報を紹介する。「KEY WORDS」CETP欠損症, コレステロール逆転送系(RCT),CETP阻害薬,HDL function
Medical Review Co., Ltd. All rights reserved.