Special feature 正しい選択と手順による 病院清掃のための『拭き消毒』
■Emphasis
感染対策における『拭き消毒』の科学的根拠
-―環境表面の病原微生物と環境消毒の最新のエビデンスから
小野寺 直人
1
1岩手医科大学医学部 臨床検査医学講座 講師/同附属病院 感染制御部 副部長
pp.5-11
発行日 2020年1月15日
Published Date 2020/1/15
DOI https://doi.org/10.34426/ict.0000000092
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はじめに
感染対策の基本は手指衛生であり,手指衛生の遵守が医療関連感染の減少に重要な役割を担っている。しかし,推奨される医療従事者の手指衛生の遵守率は5~89%(総体的な平均遵守率は38.7%)であると報告されており1),手指衛生に依存する感染制御には限界がある。一方で,医療従事者の手指を介した接触感染だけではなく,患者周囲環境や共用される医療機器も病原微生物の伝播に関与することが明らかになっている。実際に,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE),多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(MDRA),Clostridioides difficileなどは長期間環境表面に生存し,環境を経由した間接的な病原微生物の伝播が問題となっている2)。したがって,病原微生物による医療環境の汚染状況やその伝播経路を理解し,手指衛生を基本とする予防策と医療環境の清掃・消毒を的確に実践することで,効果的な医療関連感染の抑制が可能となる。なお,病原微生物の感染制御に関するガイドラインが,米国疾病管理予防センター(CDC)をはじめ米国医療疫学学会(SHEA),世界保健機関(WHO),日本環境感染学会などから公表されており,医療環境の衛生管理(環境整備)を行う際の重要な指針となっている(表1)。本稿では,環境整備の必要性が増すなかで,環境表面の病原微生物と環境消毒の最新のエビデンスから感染対策における『拭き消毒』の科学的根拠について概説する。
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