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背景と目的
摂食嚥下障害は,高齢者,脳血管障害,神経筋疾患, 頭頚部がん手術後等, 多様な患者において, 誤嚥性肺炎, 栄養障害, QOLの低下を招く重大な問題である.その評価には従来,嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)が主に用いられてきたが,いずれも視覚的評価に依存し,圧・筋機能の定量的解析には限界がある.
咽頭高解像度マノメトリー(pharyngeal high-resolution manometry;P-HRM)は,30〜36個の多点センサーによる咽頭および上部食道括約筋(upper esophageal sphincter;UES)領域の圧変化を高時間・空間分解能でとらえる技術であり,機能的評価法として注目されている 1-3).インピーダンス技術と組み合わせると,食塊(ボーラス)の位置と通過に関する情報が客観的に評価できる.以前はP-HRMが主流であったが,最近では咽頭高解像度マノメトリー・インピーダンス(pharyngeal high-resolution manometry-impedance;P-HRM-I)が世界的なスタンダードになりつつある.
2025年に発表されたルーヴェンコンセンサス(Leuven Consensus) 4)は,HRMをもとに食道運動障害を標準化したシカゴ分類(Chicago classification) 5)の咽頭およびUESバージョンともいうべきものであり,P-HRMおよびP-HRM-Iによる評価手順と診断基準を国際的に初めて標準化した試みとして高く評価されている.ルーヴェンコンセンサスの合意には幅広い学際的背景をもつ専門家が参加し,正式なデルファイ(Delphi)法による審議を通じて知識と経験を提供した.初期提案をもとに,2024年9月にベルギーのルーヴェンで筆者を含めた26名から成る専門家のワーキンググループが嚥下負荷試験プロトコール,UES機能不全,咽頭収縮機能不全の診断基準について対面会議で検討し,その後のメール審議を経て決定された.
本稿では,摂食嚥下障害におけるP-HRM/P-HRM-Iの活用に焦点を当て,① 背景と目的,② ルーヴェンコンセンサスに基づいた検査手順・評価・判定基準,③ 実施上のポイントと注意点,④ 臨床的活用の展望,の順に解説し,臨床導入を志向する医療者への実践的知見を提供する.

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