- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
上位運動ニューロン障害における痙縮治療の重要性
随意運動を指令するのは一次運動野を起点とした皮質脊髄路であり,この経路が障害されると随意性の低下が生じる.しかし一次運動野にその運動の企画を命じているのは補足運動野・運動前野であり,そこでは皮質網様体脊髄路による先行性姿勢制御も同時に企画される.すなわち,これから行われる動作によって変化する姿勢を安定させるために体幹~近位帯を緊張させつつ(橋網様体脊髄路),随意運動指令がスムーズに入力されるために動作部位の筋緊張を低下させる(延髄網様体脊髄路)(図1) 1).上位運動ニューロン障害ではこの経路も障害されるため,随意性の低下に加え筋緊張の亢進が生じやすい.なお,われわれ二足歩行動物は上肢で物を持ち上げ,下肢で自分を支えるために脊髄運動ニューロンは上肢帯で屈筋系優位,下肢帯で伸筋系優位に配置されている.そのため脳血管障害の片麻痺でおなじみの痙性の強い共同運動では,上肢は屈曲パターン,下肢は伸展パターンを呈す(図2) 1).
より正確にいえば上肢屈曲パターンには赤核脊髄路もかかわるし,一次運動野の前半を占めるold M1は脊髄介在ニューロンを経由して抑制性指令も行う等,われわれの運動指令系統はもっと複雑である.しかしいずれにせよ,われわれの運動は随意性制御と筋緊張制御の調節により行われており,上位運動ニューロン障害において痙縮治療は必要不可欠である.
痙縮治療戦略は特にこの10~20年で目覚ましく発展し,われわれはさまざまな武器を有している.どの治療が最良かという話ではなく,従来のリハビリテーション治療,装具療法,ボツリヌス療法やITB療法を含む薬物療法,手術療法,拡散型体外衝撃波等,本特集で解説されるさまざまな治療を状況に応じて適宜組み合わせられるという,この選択肢拡大こそが最大のメリットであろう.本稿では新たな選択肢の1つとして,反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation;rTMS)に期待される痙縮改善効果について解説する.
Copyright© 2024 Ishiyaku Pub,Inc. All rights reserved.