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腸内細菌と食物繊維のかかわり
ヒトの大腸は,人体でもっとも多様な微生物集団が存在する器官である.なかでも腸内細菌叢は,腸管免疫など生体のさまざまなシステムとともに働き,病原菌の消化管への侵入を防ぐバリア機能をもっている.さらには,宿主の代謝機能と協働することで,宿主の健康に大きな影響を与える.腸内細菌叢の組成は,遺伝的要因や宿主の生理機能,生活環境,服薬など,さまざまな要因の影響を受けることが知られており1),なかでも食事は,腸内細菌の組成や多様性に大きな影響を与える因子として注目を集めている.たとえば,たんぱく質と動物性脂肪を多く含む食事はバクテロイデスの増加につながり,逆に,炭水化物や植物性食品を多く含む食事はプレボテラの増加をもたらす2).さらに,これまでの報告によると,特定の腸内細菌が優勢で多様性の低い腸内細菌叢は,肥満やメタボリックシンドロームのリスクが高まるとされている3).これらの研究結果は,腸内細菌の可塑性における食事の関与と,ヒトの健康に及ぼす影響の大きさを示唆している.
また,腸内細菌の重要な役割の一つは,食物繊維など難消化性炭水化物を分解することである.これまでは,ヒトの消化酵素では分解できない食物繊維は,単に便のかさを増すだけのものとしてとらえられがちであったが,近年,腸内細菌が食物繊維を分解することで産生される短鎖脂肪酸の健康に対するよい効果が示されてきたことで,その有用性に注目が集まっている.
食物繊維は,水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維に大別される.さらに,水溶性食物繊維は,78%エタノールで沈殿を生じる高分子水溶性食物繊維と78%エタノールにも可溶である低分子水溶性食物繊維に分けられる.セルロースやヘミセルロース,難消化性でん粉などの不溶性食物繊維は,小腸で吸収されず結腸に到達し,腸内細菌によってゆっくりと消化されるため,糞便増量効果がある.一方,ペクチンやアルギン酸,b-グルカン,難消化性デキストリンなどの水溶性食物繊維は,便量の増加には大きく関与することはないものの,腸内細菌の働きにより短鎖脂肪酸などの代謝物へと変換される4).食物繊維は,大腸に生息する腸内細菌叢にとって重要なエネルギー源となることから,食物繊維が多く含まれる食事の摂取は,腸内細菌が増殖するための基質を増やすことで腸内環境を変化させ,これらの基質を利用できる細菌群の増加につながる4).一方で,食物繊維の摂取量が少ないと,腸内細菌の多様性や短鎖脂肪酸産生が低下するとともに,食事や宿主により供給されるたんぱく質やムチンの利用にシフトすることで,細胞毒性や炎症誘発作用のある代謝物の産生につながり,その結果,さまざまな疾患リスクが高まるなど,宿主の健康に悪影響を及ぼす可能性があることが報告されている5).
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