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肝疾患の変容と栄養療法の重要性
肝疾患は主に急性と慢性に大別される.慢性肝疾患の代表は慢性肝炎であり,その原因としてもっとも頻度の高い疾患は,C型肝炎ウイルス(HCV)の感染によるC型肝炎であった.C型肝炎はHCVが持続的に感染し,炎症の持続と肝線維化をきたす慢性肝炎を発症し,約20~30年かけて肝硬変に至り,その後,肝細胞癌が生じる.肝硬変の成因として,2017年までの全国集計ではHCVによるものが約半数を占めていた1).しかし,HCVに対する直接作用型抗ウイルス薬の登場と,そのきわめて高い治療効果により,HCVによる肝硬変は激減している.2023年に開催された第59回日本肝臓学会総会(吉治仁志会長)での最新の全国集計(2018〜2021年)では,HCVによる肝硬変は48.2%→23.4%と低下しており,相対的にアルコールと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)による肝硬変が,各々19.9%→35.4%,6.3%→14.6%と増加している2).NASHはこれからの慢性肝疾患の主因になると予想されているが,保険承認された治療薬はいまだなく,治療の基本は運動療法を含めた栄養管理である.
また,肝硬変に対する治療は,最近,治療薬が追加されたことにより大きく変化している.肝硬変の治療において,栄養状態の把握と適切な栄養介入の必要性はすでに認識されている.とくに,低アルブミン血症と非蛋白呼吸商の低下を特徴とする,蛋白・エネルギー低栄養状態(protein-energy malnutrition:PEM)が肝硬変の比較的早い段階から生じており,高たんぱく食による必要十分なたんぱく質の摂取,とくに分岐鎖アミノ酸(BCAA)の補充を中心とするアミノ酸補充療法の有用性はコンセンサスが得られている.また,夕食後から翌日の朝食までの夜間低栄養状態を回避するべく,眠前補食(late evening snack:LES)や分割食の重要性も認識され,それらを意識した栄養療法フローチャートが,日本消化器病学会および日本肝臓学会による「肝疾患診療ガイドライン2020」で示されている3).また,同ガイドラインのAnnual Review版では,肝硬変患者に対する管理栄養士による栄養アセスメントの重要性が示されている4).
肝疾患の診療において,栄養療法は要であるのみでなく,全身における代謝の中心臓器である肝臓にとって,栄養はまさに中心となるべき「治療」そのものである.しかし,肝疾患に対する栄養療法,それを実践するべき臨床現場において,栄養指導の重要性が認識され,栄養療法の努力に対する評価が,適切になされているとは言い難い.また,肝硬変の進行にともなって生じる高アンモニア血症やサルコペニアなど,刻々と変化する病態の把握をリアルタイムに適切に行い,治療薬の内容も加味した栄養療法を実践することは経験豊富な管理栄養士において可能であるが,体得する場と機会はなかなか得難いという問題点がある.肝疾患について理解し,病態を把握できる専門管理栄養士の育成のためには,系統的に知識を身に付け指導を受けられる制度の設計が必要である.
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