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はじめに
ヒトの身体は,大小さまざまな生体分子で構成されています.科学技術の発達により,これらの生体分子の組成が徐々に明らかになってきており,そのなかには,栄養状態とかかわりが大きい分子や私たちが普段食べているような食事に影響するものまで存在し,バラエティーに富んでいます.
ヒトの生体分子を明らかにすることで,疾患メカニズムの解明や栄養状態の把握など,さまざまなことを可能にします.しかしながら,生体分子はその種類の豊富さをはじめ,いまだ未発見の分子もあり,生体分子間の相互関係など,非常に情報が膨大かつ複雑です.無限と言えるほど存在する生体分子のパターンを把握するには,ヒトの主観での判断では限界があります.
そこで,力を発揮するのがデータサイエンスです.データサイエンスは,近年さまざまな分野で注目されており,定義するのはむずかしいですが,得られたデータを統計学等の理論を活用して,膨大なデータ解析によって有益な情報を引き出すような学問です.このような手法は,管理栄養士等が扱う臨床栄養にかかわる患者さんの食事摂取状況などの膨大な情報や,給食管理で必要となる調理や提供する食事,残食調査等のデータの取扱いにおいても力を発揮する技術と思います.
生体分子情報をデータサイエンスする分野を「オミクス(omics)」といい,近年,さまざまな分野に応用されており,栄養学分野においても例外ではありません.学問が細分化され過ぎてオミクスとは何か,どんな種類があるのかなどの解説はむずかしいですが,オミクスのなかで一番表現型に近い生体情報は,メタボローム(代謝物の総体)と言えます.メタボローム情報を解析する研究分野がメタボロミクス(=メタボローム解析)です.表現型に近いメタボローム情報は,その分析対象となる試料が「現在どのような状態であるのか?」を知るのに最適です(図1).
DNA情報等は,日々変化することはありませんが,表現型に近いメタボローム情報は,日々の生活で変動します.すなわち,昨日食べた食事内容によって,その後のメタボローム情報が変わる可能性があります.また,メタボローム情報はヒトだけがもっているわけではありません.われわれが日々摂取している食事においても,それを構成する材料等が何かしらの影響を受けると材料のメタボローム情報が変わる可能性があります.たとえば,食材として使用する魚を購入し,冷蔵庫に保存したとします.その保存中に魚も自己融解や微生物等の作用で代謝しますので,メタボローム情報が変わります.
前置きが長くなってしまいましたが,本シリーズの前編では,臨床栄養分野へのメタボロミクスの展開を,後編(次号掲載予定)では,給食管理分野でのメタボロミクスの可能性について解説していきます.
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