デジタルツイン技術が切り拓く心不全の個別化医療

Digital twin technology paves the way for personalized heart failure treatment

　心不全は多様な病因と進行様式を有する代表的な難治性疾患であり，標準治療の発展にもかかわらず依然として予後不良である．個々の患者に最適な治療を導くためには，従来の集団データに基づくアプローチを超えた個別化医療が不可欠である．デジタルツイン技術は，患者固有の臨床データ，画像診断，バイオマーカー，さらにはウェアラブルデータを統合し，仮想空間上に構築されたモデルを用いて病態進展や治療効果をシミュレーションする手法である．本技術は，左室リモデリングや再入院リスクといった病態予測，薬物療法・デバイス治療の個別最適化，心臓再同期療法（CRT）/植込み型除細動器（ICD）の適応判断の精緻化，さらにリモートモニタリングと遠隔診療との統合など，多様な臨床応用が期待される．また，マルチスケール解析を通じて分子から全身レベルに至る病態理解を深化させ，臨床試験やガイドライン策定においても新たな方法論を提供しうる．一方で，データ標準化，倫理・プライバシー保護，規制整備，臨床現場での受容性といった課題も残されている．今後，AIや数理モデルの進化と学際的協働を背景に，デジタルツインは “患者ごとのシミュレーション医療” を実現し，心不全診療のパラダイムシフトを牽引することが期待される．