マルチモーダルAIが切り拓く心不全診療の未来 -――診断精度向上・予後予測・個別化医療の新地平

The future of heart failure care shaped by multimodal AI ――Advancing diagnostic accuracy, prognostic prediction, and personalized medicine

　心不全は超高齢社会における代表的疾患であり，再入院や死亡率が依然として高く，“心不全パンデミック” と称される．多様な病態背景により診療の最適化は難しく，臨床現場では複数の検査所見を総合的に解釈しているが，AIは依然として個別データの解析にとどまる．この制約を克服する技術として注目されるのが，マルチモーダルAIである．画像，波形，数値，テキストを統合解析することで診断精度や予後予測が向上し，薬物療法およびデバイス治療の個別化医療にも寄与しうる．救急外来で心電図や検査値を組み合わせてリスクを即時提示する試みや，電子健康記録（EHR）やウェアラブルデバイスを活用した再入院リスクの予測，心エコーとMRIを統合した心臓再同期療法（CRT）の治療反応性予測などが報告されている．さらに，心電図や臨床文書を取り込み，診療対話に応用したマルチモーダルAMIEは，模擬試験で専門医を上回る診断性能を示し，その可能性を鮮明にした．これらは診療の質を変革しつつあるが，データ標準化や説明可能性，規制対応，患者受容性といった課題も残されている．