心臓周囲脂肪組織と心不全をつなぐ分子ネットワーク

The molecular network linking pericardial adipose tissue and heart failure

　肥満は公衆衛生上の重要な課題であり，脂肪の過剰蓄積はさまざまな合併症，特に心血管疾患の発症と密接に関連している．近年，脂肪はその “量” だけでなく “蓄積部位” も疾患発症に深く関与することが明らかとなってきた．そのなかでも近年，心臓周囲脂肪組織（PeAT）が大きな注目を浴びている．最近10年間程度のうちに，冠動脈疾患，心房細動，左室駆出率が保たれた心不全（HFpEF）を含む心不全などの各種心血管疾患の発症に，PeATが有意に関連することが報告されている．PeATがこれらの心血管疾患発症に関わるメカニズムには，PeAT局所の脂肪組織炎症が関与している可能性が指摘されている．最近の研究によって，PeAT炎症の非侵襲的評価法として，CT画像における脂肪減衰指標（FAI）が開発され，PeATを標的とした新規心血管疾患治療法として，SGLT2阻害薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の有用性が期待されている．本稿では，PeATの解剖学的特徴，各種心血管疾患との関連，さらには治療標的としての可能性について概説する．