循環器ゲノム医療とどう向き合うか？ -――ELSIからみる未来医療の責任

How should we approach cardiovascular genomic medicine? ――Responsibility in future medicine from an ELSI perspective

　循環器ゲノム医療は，心筋症や不整脈，大動脈疾患などにおいて臨床応用が求められる一方で，倫理的・法的・社会的課題（ELSI）が顕在化している．患者と家族の自己決定権を尊重しつつ，インフォームド・コンセントやカスケードスクリーニングの是非，二次的所見（SF）の告知や再接触の責任といった倫理的ジレンマが存在する．また，研究と臨床を隔てる法制度の不整合は，ゲノム情報の返却や診療利用において現場に大きな負担を強いている．さらに，遺伝カウンセラー不足やデータ標準化の遅れなど社会的課題も多く，患者・家族の孤立や不安を軽減する仕組みの構築が急務である．責任ある実装には，解釈と返却の標準化，法制度の整備，公平なアクセス保障，教育と市民参画を柱とする包括的戦略が必要である．本稿は，循環器ゲノム医療を未来医療の “責任” として，社会に還元するための課題と展望をELSIの観点から論じた．