FORUM 司法精神医学への招待――精神医学と法律の接点・Vol.16
精神科医と法曹関係者との対話と協働
柏木 宏子
1
Hiroko KASHIWAGI
1
1国立精神・神経医療研究センター病院司法精神診療部
pp.1201-1207
発行日 2025年9月20日
Published Date 2025/9/20
DOI https://doi.org/10.32118/ayu294121201
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「普通」の精神科医の果たす重要な役割
われわれ精神科医には,精神保健福祉法や医療観察法といった法律を遵守することが求められている.しかし,これらの法律には,医師法や医療法のほか,憲法や刑事訴訟法や労働安全衛生法などの多様な法律が背景や前提として存在しており,複雑に絡み合っている.このことは普段の臨床での何気ない判断とも無関係ではないはずだ.精神科に限ったことではないが,精神科医療では特に,支援者となる者はまず「自分たちは法律について何も知らない」と自覚することが最も重要ではないかと考える.われわれの慣習や常識の一部は,たとえそれが善意や責任感から生じていたとしても,一般社会や法の専門家から見たら「アウト」かもしれない.自分たちの判断を過信することなく,法の専門家の知恵を借りることは重要だ.その過信の行き着く先は,昨今世間を騒がせている精神科病院での虐待事案や患者置き去り事案,身体拘束関連の判例に表れている.そして,刑事訴訟法の法的手続きの過程で,刑事精神鑑定を引き受けた場合には,より一層謙抑的になる必要がある.なぜならわれわれ精神科医は刑事訴訟法の原理,原則や実状,限界について普段から肌身で感じながら実務にあたっている立場にはないからである.

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