FORUM 司法精神医学への招待――精神医学と法律の接点・Vol.2
法的処遇の分岐点における精神科医の関わり
田口 寿子
1
Hisako TAGUCHI
1
1精神医学研究所附属東京武蔵野病院
pp.272-276
発行日 2025年4月19日
Published Date 2025/4/19
DOI https://doi.org/10.32118/ayu293030272
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責任能力,訴訟能力,受刑能力
ある行為が犯罪として処罰されるには,構成要件該当性(その行為が刑法など刑罰法令の定める犯罪類型に該当すること),違法性(その行為が法律によって保護される利益を害するものであること),有責性(違法行為について行為者に対する非難可能性があること)の3つの要件を満たしていなければならない.構成要件に該当する違法行為であっても「責任なくして刑罰なし」と言われるほど有責性の要件は重要とされており,この責任主義は近代刑法の根本原則のひとつである.有責性の主たる要件が責任能力で,自己の行為の善悪を判断し(弁識能力),その判断に従って自分の行動を制御する能力(制御能力)が,精神障害のために失われている状態を心神喪失または責任無能力,著しく損なわれてしまっている状態を心神耗弱または限定責任能力という.わが国では刑法39条が「心神喪失者の行為は罰しない」「心神耗弱者の行為はその刑を減軽する」と定めている.すなわち,刑罰法令に触れる行為(以下,触法行為)が心神喪失の状態でなされた場合,本人が責任を取ることができないため非難することができず,無罪となる.心神耗弱の状態の場合には,本人に完全な責任があるとは言えないため,その刑罰は減軽される.

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