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特集 生物学的相分離と計測技術
凝集と相分離に基づく相分離工学の幕開け
Dawn of Bio-LLPS engineering, supported with aggregation and droplet knowledge
延山 知弘
1
,
吉田 桃也
2
Tomohiro NOBEYAMA
1
,
Toya YOSHIDA
2
1京都大学大学院生命科学研究科統合生命科学専攻分子情報解析学分野
2筑波大学大学院理工情報生命学術院数理物質科学研究群
キーワード:
液–液相分離(LLPS)
,
オボアルブミン(OVA)/リゾチーム(LYZ)系
,
液滴–表面相互作用
,
相転移過程
,
相分離工学
Keyword:
液–液相分離(LLPS)
,
オボアルブミン(OVA)/リゾチーム(LYZ)系
,
液滴–表面相互作用
,
相転移過程
,
相分離工学
pp.293-298
発行日 2025年1月25日
Published Date 2025/1/25
DOI https://doi.org/10.32118/ayu292040293
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生体内の高度な反応に係る反応場の物理的実体として,液–液相分離(LLPS)による液滴が提案されてから10年以上になる.液滴自体を観測する相分離生物学は大幅な進展をみせる一方で,区画化された反応場で液滴がどのように生じ,振る舞い,消えるのかという点からの物理学的研究は意外なほど少ない.特に細胞内は極めて密に物質が存在する空間である以上,液滴と外部物質との相互作用は,液滴の振る舞いを考えるうえで重要であろう.こうした観点に基づき,筆者らは安価なタンパク質であるオボアルブミンとリゾチームを用いた相分離系(OVA/LTZ系)を徹底的に構築し,種々の化学修飾された表面上でのOVA/LYZ液滴や凝集体の形成および表面上での相転移を網羅的に追跡した.これらの結果は,OVA/LYZ系の相図の相境界上では液滴–表面相互作用が無視できないことを示している.一方で,L-リジン残基で修飾された表面と遊離L-リジン添加条件を比べると,後者は相境界からの近さによらずすべての液滴や凝集体が溶解した.これは液滴–表面相互作用の効果と遊離の添加剤が液滴に与える効果はまったく異なることを示している.界面効果が相境界上での相転移に限定して影響することとは対照的である.本研究はLLPSや固–液相分離のダイナミクスにおける接触表面効果を明示的に示した初の実験系であり,相互作用によって液滴の相転移や生成消滅を制御する “相分離工学” ともよべる新たな分野を形作る一例となっている.
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