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西アフリカに生息する齧歯類を宿主とするエムポックスウイルス(mpox virus:MPXV)は,痘瘡ウイルスと同様にポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に分類される二本鎖DNAウイルスである.直径が約300nmの比較的大きな,卵形の粒子からなるウイルスである.約200個のopen reading frames(ORFs)を含む約200kbの遺伝子をウイルス遺伝子とする.アフリカ中央部やアフリカ西部に生息する齧歯類(ジリス,ラットなど)がMPXVの宿主であると考えられている.1970年に,アフリカ中央部や西部で痘瘡様症状を呈した患者からMPXVが分離・同定され,ヒトがMPXVに感染すると痘瘡様疾患を発症することがはじめて確認された.それをヒトエムポックス(human mpox:hMPX)とよぶ.MPVには2種類の遺伝子型が存在し,ひとつはコンゴ民主共和国などアフリカ中央部に分布しているコンゴ盆地系統のMPXVであり,もうひとつは西アフリカ系統のMPXVである.コンゴ盆地系統のMPXVによるhMPX患者の致死率は,西アフリカ系統のそれよりも相対的に高く,その違いは両系統のウイルスにおける病原性の違いによる.1970年代以降,アフリカでは散発的にhMPXが流行し,家族間や患者から医療従事者への感染に限られていたが,ヒトからヒトへの感染も報告されていた.1980年に痘瘡の根絶が世界保健機関(WHO)により宣言され,痘瘡ワクチンの世界規模の接種活動が行われなくなった.Human MPXの予防には痘瘡ワクチンが有効であり,ワクチン接種が中止されて半世紀が経過した.流行地ではMPXVに対する免疫のない人々の割合が高く,それに合わせて流行地ではhMPX患者の増加が懸念される.2022年5月ごろから欧州でhMPX患者が増加しはじめ,その流行はアメリカ大陸の国々,その他の地域でも患者が報告されるようになった.その多くは男性間性交渉者(men who have sex with men:MSM)の方々であり,性的接触の経過でMPXV感染が広がった.今後もhMPX流行が世界規模で発生する可能性があることから,流行地でのワクチン接種に基づくhMPX流行対策が重要と考えられる.
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