FORUM 日本におけるワクチン不信を巡る謎・2
戦後の日本におけるワクチンと予防接種
アンドリュー ゴードン
1
,
マイケル ライシュ
2
1ハーバード大学歴史学部
2ハーバード大学公衆衛生大学院武見国際保健プログラム
pp.1081-1083
発行日 2021年6月19日
Published Date 2021/6/19
DOI https://doi.org/10.32118/ayu277121081
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占領下におけるワクチンと予防接種
戦後間もない日本の予防接種の歴史で最も有名な出来事は,1948年の予防接種法の成立である.当時,連合国占領軍や日本の医療関係者は,この法律を予防接種の義務化と不履行に対する高い罰則を備えた世界で最も強力な法律と考えていた20).この法により,天然痘や腸チフス,チフス,ジフテリア,百日咳,結核の定期予防接種が義務付けられた.また,インフルエンザを含むその他6つの感染症についても,必要に応じてワクチン接種が義務付けられた.法律制定の背景には,コレラやチフス,天然痘などの急増があった.急増の原因としては,戦時中大陸から徴用した労働者とともに日本に入ってきたとか,兵士や民間人が引き揚げてきたときに持ち込んだとか,あるいは過酷な労働環境や生活環境にさらされて弱った引き揚げ者の間で広がったとか,さまざまな説が唱えられた.とくに戦争で焼け野原になった都市では,衛生環境や公衆衛生制度が崩壊したことによって,感染症は戦争末期から戦後にかけて引き揚げ者やそれ以外の人々の間でも蔓延した21).
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