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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国に端を発し世界各地に拡散し,全世界の累計感染者数は2022年2月上旬に4億人を超え,そのわずか2か月後には5億人に達し,世界の累計死者数は620万人になった。日本国内の累計感染者数は791万人で,世界各国への拡散は驚くばかりである。わが国では今から2年前の2020年2月3日,クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の船内で多くの新型コロナ患者が発生した状況で横浜港にその大型旅客船が入港した。当院でも災害対策本部を法人内に設置し,職員が一丸となってこの未知の感染症と闘った。病棟には専用病床を設置し,空調を変更して陰圧室を即席で作り,院内クラスターが起きないよう最善の対策を立てた。また,発熱外来を設け,感染が疑われる患者が通常診療に紛れ込まない工夫もした。輸入に頼っていたマスクや医療機材はたちまち枯渇し,感染防御に必要なN95マスクは品質がわからない外国製品をインターネットで購入する施設も出てきた。感染の最前線で使用する使い捨てガウンが手に入らずビニール製のレインコートで代用し,ゴミ袋を改良した手作りガウンも作った。不織布マスクは値段が高騰し手に入らなくなり,使い捨てマスクを洗濯して使う日が続いた。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客は長い船旅を楽しんだ定年後の外国籍の老夫婦だったが,異国で夫婦が別々の病院に収容され,インターネットでメールを数回交わしたあと,肺炎が悪化して挿管され,その後体外式膜型人工肺(ECMO)管理となり,寂しそうな眼をしながら何かを訴え続け天国に旅立つ光景が現実となった。家族に国際電話で訃報を伝え,横浜検疫所と連絡を取り,遺体を黒い厚手のビニール袋に入れジッパーを閉めた音は今でも耳に残っている。最後のお別れもできず,病院の裏口から帰る光景は地獄絵図のようだった。
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