徹底分析シリーズ ガスメディエータの未来
巻頭言
市瀬 史
1
1Massachusetts General Hospital 麻酔科
pp.1263
発行日 2012年12月1日
Published Date 2012/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101694
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- 文献概要
ガスという言葉には,どうもよくないイメージがつきまとう。ガス爆発,ガス室,排気ガス,毒ガスなど,どれもあまりよい言葉ではない。そうなった理由は,一般的にはガスが目に見えないこと,高濃度のガスは種類を問わず毒性があることが昔から知られていたこと,種類によってはクサい臭いがすること,などであろうか。
しかし,生命活動にとってガスは根源的に必須である。ガスがなければ,地球上に生命は存在できない。酸素も二酸化炭素もガスであることは言うまでもない。
一方,エーテル麻酔から始まった現代の麻酔学は,その始まりからガスとの深いかかわりをもっている。現在でも,麻酔科はガスを日常的に用いるほとんど唯一の診療科であり,麻酔科医はガスを安全に扱うことができる貴重な専門家とみなされている。ガス研究をリードしてきた研究者の多くは麻酔科医である。しかし,現在の“ガス生物学”の対象は,通常の麻酔で用いるガスの範囲を大きく超えている。
近年の研究の結果,非常に興味深いことに,いくつかのガス分子は,われわれの体内でも活発に産生されていることがわかってきた。しかもそのうちの三つのガスは,生体内のシグナル伝達にも関与し,記憶,血管拡張,男性器の勃起など,生命活動になくてはならない重要な役割を果たしている。本徹底分析では,その三つのガス,NO,H2S,COに焦点を絞ることにした。酸素や笑気にとどまらない,ガス生物学の最先端を垣間みて,興味を膨らませていただければ幸いである。
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