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はじめに
ヒトパピローマウイルス(HPV)は,女性だけでなく男性においても,がんの主な原因とされている。全世界で,新規がん症例全体の約5%(69万例)がHPVによる感染が原因とされており1),これは感染症に起因するがん全体の29.5%に相当する。HPV感染は,子宮頸部中等度異形成(CIN2),高度異形成(CIN3),子宮頸部上皮内腺がん(AIS),子宮頸がんの原因のほぼ全症例,肛門がんの88%の症例と明らかに関連することが知られている。そのほか,腟(78%),陰茎(50%),外陰部(25%)のがんと関連し,頭頸部領域の中咽頭がんとは31%の症例で因果関係がある2)。そのため感染予防に向けられたリソースが非常に重要であり,国家的な戦略として介入することにより,増大するがん罹患率と死亡率を減らすことができる。とくに子宮頸がんは,妊孕性が課題となる若年女性を中心に発症するがんであるが,子宮頸がん発症を予防することのできるHPVワクチン接種,適切な子宮頸がん検診を推進することにより,世界から撲滅ができるがんである。しかしながらわが国では,2013年に政府がHPVワクチン定期接種の積極的勧奨中止を決定してから,再開するまで約8年間,接種率が1%未満に低下する事態となっていた。そのため2000年以降に出生した「ワクチン停止世代」とよばれる女児が,これから子宮頸がん検診を受ける時期となっていることを注視する必要がある。また2021年よりHPVワクチン定期接種の積極的勧奨再開が宣言されたが,2023年7月現在,実質的な接種率はおそらく10%程度と推計されており,2013年当初に接種開始がなされた時期の70%接種率には全く到達できていない。
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