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1 基本病因,発症機序
ロイシン,イソロイシン,バリンの分枝鎖アミノ酸代謝異常症は,1954年に楓糖尿症が報告されて以来多くの酵素欠損部位が同定されてきた。そのなかでイソ吉草酸血症(OMIM#243500)は1966年にTanakaらにより,ボストン在住の異様な体臭をもつ姉妹のガスクロマトグラフィ・マススペクトロメトリー(GC/MS)分析結果をもとに発見された1)。わが国では1979年に市場らによって,繰り返す嘔吐・意識障害・むれた足の臭いにより,尿中有機酸分析を行い診断された症例が報告された2)。本症は6段階あるロイシン異化過程の第3段階目を触媒しているイソバレリル-CoA脱水素酵素(isovaleryl-CoA dehydrogenase:IVD)の欠損によりイソ吉草酸や関連代謝産物が蓄積し特異な体臭の原因となる(図1)。イソ吉草酸はすぐに3-ヒドロキシイソ吉草酸などに代謝されるため,尿中への排泄は比較的少なく,汗などの分泌物の臭いが強いとされる3)。本症の発見は歴史的に二つの重要な意味を持ち,一つは本症がGC/MSにより診断された最初の有機酸血症であり,この発見を契機に世界各地にGC/MSが設置され新しい有機酸血症が次々と発見されたことである。もう一つはIVDの存在が明らかとなり,ヒトの正常なロイシンの代謝経路が解明されたことである。イソ吉草酸は納豆やチーズの臭いにも含まれ,発作時の汗臭い強烈な体臭の原因であり,イソ吉草酸血症は別名足のむれた臭い(sweaty feet odor),または汗臭い足症候群ともいわれている4)。原因遺伝子であるIVD遺伝子は染色体15q14-15に局在し約15kbで12エクソンからなる。この遺伝子は426アミノ酸からなる前駆体として生成され,その後ミトコンドリアに取り込まれる際に翻訳開始点の上流32アミノ酸が切り取られ394アミノ酸の成熟酵素となる。欧米の遺伝子変異に関する報告では,点変異,フレームシフト変異,スプライス変異など60以上の変異が報告されているが,表現型と遺伝子型の相関は明らかではない。欧米では人種差はあるものの,タンデムマス法による新生児マススクリーニング(NBS)で発見される軽症例・無症状例を含めると約7~13万出生に1人の頻度で発見されている5)。日本での発生頻度はパイロットスタディの結果によると1997~2012年の15年間に3例発見され(スクリーニング数約195万人),約65万人に1人の発生頻度と推測されているまれな疾患である6, 7, 8)。
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