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はじめに
予防医学にワクチンの果たしてきた役割は大きく,多くの感染症に対するワクチンが開発されてきた。古くは1796年のジェンナーの種痘から生ワクチンが始まり,世界中に種痘法が広がり1980年には天然痘は撲滅された。パスツールは病原体を乾燥状態で長く空気中に晒すことで不活化させ,晒す時間の長い順に接種することで狂犬病ワクチンを開発した。これが不活化ワクチンの始まりとなる。種痘,狂犬病はその病原体が同定される前にたゆみない観察と経験と勇気によりワクチンが開発されてきた1)。1930年以降には動物固定を使ってウイルスを分離し,その組織を使ってワクチン抗原としていた時代から,1931年には発育鶏卵でウイルスが分離できることがわかり,黄熱,インフルエンザウイルスワクチンが製造されるようになり,格段と安全性が高まった。その後,画期的な発見は1949年には組織培養の技術が開発され,ポリオ,麻疹,ムンプスウイルスが分離され生ウイルスワクチンの開発が始まった2)。1986年には遺伝子操作により酵母細胞からB型肝炎ウイルス抗原を精製しワクチン抗原として使用できるようになったが,その後遺伝子操作によるワクチン開発はヒトパピローマワクチン(HPV)まで開発されなかった2)。開発までには病態の解析から感染防御に関わる抗原の同定,ウイルスの増殖・精製などの製造面だけでなく免疫応答の解析,有効性の評価まで数年~数十年かかっていた。しかし,今回の新型コロナウイルスに対するmRNA,ウイルスベクターワクチンは画期的で新しい時代の到来を感じさせるものである。しかし,その背景には30~40年の長い基礎研究があることに注目しなければならない。
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