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はじめに
特発性ネフローゼ症候群(idiopathic nephrotic syndrome:INS)の蛋白尿の原因は,高度分化細胞である糸球体上皮(ポドサイト)の障害である。INSの病型は,微小変化群(minimal change disease:MCD)と巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)に分類される。わが国のINSの新規発症は,小児領域では年間約1,000例であり,その約80%がMCD,約15%がFSGSである。成人のINS(膜性腎症を除く)においても,病理診断の統計をもとにすると,少なくとも年間1,000例以上は新規に発症し,そのうちMCDの割合は小児に比して少ない。MCDの蛋白尿は,初期治療である糖質ステロイド(ステロイド)により完全寛解を示すが,その後ステロイド依存性に移行することが臨床上の課題である。一方,FSGSでは,蛋白尿はステロイド抵抗性を示し,末期腎不全に移行することが臨床上の課題である。さらに,FSGSでは,初発時の腎組織においてはMCDでありながらも,ステロイド抵抗性のための再生検で糸球体硬化像がはじめて観察されることはしばしば経験する。このことから,MCDとFSGSの病因は同一である可能性も指摘されてきた。実際に,最近,INSの血清中における抗nephrin抗体の存在が報告された1)。抗nephrin抗体は,その陽性率の違いがあるにせよ,MCDとFSGSのいずれの血清においても同定されている。このことは,抗nephrin抗体はMCDとFSGSの共通の病因の1つである可能性を示唆している。一方では,この血中抗nephrin抗体の出現は,何らかの原因によるポドサイト障害を発端とした二次的免疫応答による可能性は否定できていない。いずれにしても,両病型におけるポドサイト内の偏位代謝経路が未知であるため,副作用のない抗ネフローゼ薬の創薬研究は停滞している。従来,ポドサイト障害の病理の同定を目的として,多くのネフローゼ動物モデルが開発されてきた。先天性ネフローゼなどの遺伝性糸球体疾患モデルの作成は,遺伝子改変技術により可能である2)。一方,後天性と考えられているINSのモデル作成において,遺伝子改変モデルの樹立はできていない。本稿では,薬剤誘導と遺伝子改変を除いた従来のネフローゼ動物モデルを概説し,さらに,最近筆者らが開発した新規のマウスモデル・Crb2 nephrosisについて紹介する。

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