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Ⅰ 疾患概念と診断基準
認知症は概念的に「一度正常に達した知的機能が後天的な器質性障害によって持続性に低下し,日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態で,それが意識障害のないときにみられる」と日本神経学会監修の『認知症疾患診療ガイドライン2017』1)で定義づけられている。あくまで診断名であり疾患名ではない。代表的な認知症診断基準としては,世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第10版(ICD-10)2)や米国国立老化研究所〔Alzheimer病協会ワークグループ(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association workgroup:NIA-AA)〕AD基準3),米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)4)などが有名である。ICD-102)(表1)5)は,記憶力低下を必須としているため,Alzheimer病(AD)型認知症が念頭に置かれた診断基準となっているが,NIA-AA AD診断基準(表2)3)では,記銘記憶障害,論理的思考・実行機能・判断力の低下,視空間認知障害,言語機能障害,人格・行動・態度の変化などの行動障害を同列に扱うことで,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)などの記憶障害を中核症状としない認知症疾患診断にも順応している。DSM-54)(表3)6)では,6つの認知領域(複雑性注意,実行機能,学習および記憶,言語,知覚-運動,社会的認知)を同等の重み付けで分類し,これら複数の認知機能のうちどの領域が障害されて臨床像を呈しているかの総称となった。また新たな情報源(患者自身や家族/知人・医療従事者などからの病歴聴取による懸念と標準化神経心理検査での定量評価)による認知機能低下の客観的担保を求め,すべての認知症疾患診断に対応した。また,ラテン語(demens:deない/mens正気;正気から外れる)が語源となるdementia(認知症)が差別的で偏見を助長するとの懸念を払拭するため,neurocognitive disorders(神経認知障害-群)という新たな用語が導入された。この時点でわが国では「痴呆」の呼称が不快感や屈辱感,ひいては誤解や偏見を招くとの懸念から「認知症」へと用語変更され久しく,すでに一般的に受け入れられて定着していた経緯を鑑み,その一群としてmajor cognitive disorder〔認知症(DSM-5)〕として踏襲された。
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