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Ⅰ 適応と禁忌
十二指腸主乳頭部腫瘍(乳頭部腫瘍)に対する内視鏡的乳頭切除術(EP)は1983年にSuzukiらが報告1)したのち,現在は乳頭部腫瘍,特に腺腫に対してハイボリュームセンターを中心に広く行われるようになってきている。しかし明確に保険収載された手技ではなく,偶発症や再発など治療手技として課題は山積している。2021年に日本消化器内視鏡学会(JGES)から「内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy:EP)診療ガイドライン」2)(以下,JGESガイドライン)が出された。EPの現状における適応,手技,短期・長期成績などがまとめられ,解決すべき課題も明確になった。また,大きな差異はないものの欧州消化器内視鏡学会(ESGE)のガイドラインも2021年に発行されているので,興味のある方はそちらも参照いただきたい3)。適応について,JGESガイドラインでは明確なコンセンサスが得られていないことを背景に,十二指腸乳頭部腺腫にEPを施行することを提案すると述べられているのみであるが,胆膵管内進展を伴わない腺腫を適応とすることに異論はなくなっていると思われる。一方,乳頭部癌に対しては,「エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第3版」4)でT1乳頭部癌でも10%程度のリンパ節転移が認められることから,Tis乳頭部癌に対するEPや外科的乳頭局所切除は許容される可能性があるが,「十二指腸乳頭部癌では正確な深達度診断がいまだ困難なので,行わないことを提案する」とされ,相変わらず膵頭十二指腸切除術が標準治療法とされている。乳頭部癌にEPや外科的局所切除を適応拡大するためのエビデンス蓄積に際して大きな問題となっていたのは,T1の定義が本邦と海外で異なっていたことである。最新の「胆道癌取扱い規約 第7版」5)では国際対がん連合(UICC)によるTNM分類(第8版)にあわせ,T1はT1a〔乳頭部粘膜層(M;T1a(M)〕あるいはOddi括約筋層〔OD;T1a(OD)〕までの浸潤とT1b〔Oddi括約筋を越えて浸潤(括約筋周囲に浸潤する),および/または十二指腸粘膜下層に浸潤〕とされた。しかし過去の本邦の規約では,T1aは乳頭部粘膜内にとどまる,T1bはOddi括約筋に達する,とされT1の定義が異なっており,過去の論文内容を検討する際は注意が必要である。乳頭部癌に対するEPの報告として,Yamamotoら6)は27例のTis~T1aまでの乳頭部癌症例と4例のT1b乳頭部癌症例(stagingは古い規約による)のEP症例を対象とした報告を出している。この報告によると,Tis~T1aまでの乳頭部癌の全例が高分化型腺癌で,リンパ管侵襲を認めなかったが,T1bの4例中2例は中分化型腺癌で1例にリンパ管侵襲を認めた。Tis~T1aまでの乳頭部癌(平均観察期間48.5カ月間)とT1b乳頭部癌(平均観察期間26.5カ月間)に癌の再発は認めず,長期間の経過観察を伴う多数例の前向き検討が必要であるが,EPはT1aまでの乳頭部癌治療に有用であると結論づけられている。筆者の施設の成績では7),180例の乳頭部腺腫,59例のT1a(M),6例のT1a(OD),1例のT1bの乳頭部癌(stagingは「胆道癌取扱い規約 第7版」より。全例,高分化型腺癌)を含むEP例の根治切除(最終内視鏡治療6カ月後に遺残病変なしと定義)を妨げるリスク因子として,EP術前生検で癌成分を含むこと〔p=0.035,odds ratio 14.5(95%信頼区間:1.20~167)〕が有意な因子の一つであったが,根治を得てしまえば,その後の再発や追加外科的手術のリスク因子には,EP術前生検の癌成分を含むことや最終病理診断が癌であることは有意な因子として抽出されず,腺腫症例と同様の経過をたどることが示された。また,追加外科的手術となった症例もすべて根治切除が可能な状態で見つかっており,術前生検で高分化型腺癌と診断されても腺腫成分を含む症例であれば,十分EPの適応としても問題ないと結論づけられている。また,Yoonら8)は平均32.2カ月間の経過観察で再発を認めなかったことを根拠に,腺腫内癌もEPの適応になると述べている。これらの症例の蓄積により,Oddi括約筋への浸潤がない高分化な乳頭部癌のリンパ節転移の可能性は非常に低いと考えられており,またその術前診断が可能になればEPの適応になる可能性が高いと考えられ,さらなる症例の蓄積が期待される。
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