特集 血球のトラフィッキング ~分子基盤から病態まで~
3.造血系とケモカインシステム ~トラフィッキングの場としての骨髄~
長澤丘司
1
Takashi Nagasawa
1
1京都大学 再生医科学研究所 教授
pp.1391-1399
発行日 2013年9月30日
Published Date 2013/9/30
DOI https://doi.org/10.20837/52013101391
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造血幹細胞は,その大部分が胎生中期の大動脈の周囲(AGM領域)で,一部が卵黄嚢で血管内皮細胞層より発生し,胎児肝に移り自己複製したあと,胎生期終盤に末梢血管を経て骨髄にホーミングする。この過程には,接着分子のβ1インテグリンが胎児肝や骨髄へのホーミングに,ケモカインCXCL12が骨髄へのホーミングに必須である。成体では,造血幹細胞の少数が骨髄腔,末梢循環,組織の間を行き来している。近年,成体の骨髄で,造血幹細胞が接着し,その増殖・分化の調節に重要である特別な微小環境であるニッチ(niche)の研究が進んでいる。2003年に骨内膜の骨芽細胞の一種が造血幹細胞ニッチを構成するという骨内膜ニッチ説が提唱され広く受け入れられたが,その根拠は十分とはいえないようである。その一方で,血管内皮細胞(血管ニッチ説)や,CXCL12とSCFを高発現し長い突起を持つ骨芽細胞・脂肪細胞前駆細胞であるCAR(CXCL12-abundant reticular)細胞が造血幹細胞・前駆細胞ニッチを構成すること(細網ニッチ説)が示されている。成体の造血幹細胞・前駆細胞のトラフィッキングに重要な役割を果たすであろうニッチの同定を足がかりに,その理解の進展が期待される。