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慢性閉塞性肺疾患(COPD)の安定期における薬物療法では,吸入型の長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と吸入型の長時間作用性β2刺激薬(LABA)が主要な薬物である。COPD診断と治療のためのガイドラインでは,治療効果が不十分な場合は,作用機序の異なる複数の薬物の併用が勧められている。本研究では,ムスカリン受容体を介した気道平滑筋収縮に対する拮抗作用におけるLAMAとLABAの併用効果を薬理学的観点から検討した。1μMメサコリンで収縮させたモルモット気管平滑筋の切片に,LAMAであるグリコピロニウム臭化物(glycopyrronium bromide:GB)を投与すると,3,10,30 nMでそれぞれ11.1,27.1,46.7%,収縮反応を抑制した。一方,LABAであるインダカテロールマレイン酸塩(indacaterol maleate:IM)による収縮抑制率は,1nM で7.8%であった。IM 1nMの存在下でGB 3,10,30 nMを投与すると,それぞれの濃度における抑制率は28.2(P<0.05),51.2(P<0.05),82.7%(P<0.01)に増加した。これらの値は,各濃度におけるGB,IMの単剤による抑制率の総和よりも有意に大きかった(相乗効果)。組織を百日咳菌毒素(Giの阻害剤),あるいはコレラ菌毒素(Gsの活性化剤)で前処理すると,GB,IMによる相乗作用は有意に増加した。一方,クリブドトキシン(large conductance Ca2+-activated K+〔KCa〕channelの選択的阻害剤)存在下では,この相乗作用は著明に抑制された。以上の結果から,GBとIMの併用は気管平滑筋の収縮抑制に関して相乗作用を生じ,その機序として,Gi/KCa channel inhibitory linkageの抑制,Gs/KCa channel stimulatory linkageの活性化に由来したKCa channelの活性化が重要な役割を果たしている可能性が考えられる。本研究の結果より,LAMAとLABAの併用は,安定期COPDの治療薬として,それぞれを単剤で使用するよりも有用であることが推察される。