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「医療機関における院内感染対策について」(医政地発1219第1号)に,カルバペネム耐性の腸内細菌科細菌については,プラスミドを介して耐性遺伝子が複数の菌種に伝播する「プラスミドのアウトブレイク」が生じうることについて注意が促されている。 実際に,国内医療機関において,共通の耐性プラスミドを有する複数種の腸内細菌科細菌が関与するカルバペネム分解酵素産生菌の長期にわたる院内伝播が報告されている(IASR 35:290, 2014)。感染対策チームがこのような事例を早期に「アウトブレイク」と認識することは容易ではない。 「プラスミドのアウトブレイク」は海外でも報告されている。米国のある医療機関において2007~2012年に検出されたKPC(カルバペネム分解酵素の一種)産生肺炎桿菌37株について,全ゲノム解析データを用いて,ゲノム相同性解析,MLST(分子疫学解析の一種),プラスミド解析が実施された。37株はMLSTで16の型(ST)に分類され,遺伝学的背景が多様であることが確認されたが,これらのうち21株がKPC遺伝子をもつ共通のプラスミドを有していた。このような「プラスミドのアウトブレイク」と同時期に,KPC産生肺炎桿菌の流行株であるST258株の院外からの散発的な流入と,今回の独自のアウトブレイク株であるST941株13株の院内伝播が生じていた(Antimicrob Agents Chemother 59:1656, 2015)。このような複雑な状況は,検出菌の菌名と薬剤感受性,病院疫学情報を基礎とし,状況に応じてパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を用いる古典的手法では把握し難い。 医療機関の検査室から全ゲノム解析やプラスミド解析へのアクセスが容易ではない現状において,臨床現場で可能な対策は,カルバペネム分解酵素産生が疑われる腸内細菌科細菌が検出された場合には,それが一例のみであっても厳密な感染管理を適用するという「早目の対応」ということになる。しかしながら,腸内細菌科細菌がカルバペネム分解酵素を産生していても,薬剤感受性試験でカルバペネムに耐性を示さないことがしばしばある(Antimicrob Agents Chemother 58:3441, 2014)。また,Enterobacter sp.やCitrobacter sp.などは獲得耐性を有しない野生株でもイミペネムの最小発育阻止濃度(MIC)は高めに分布しており,一部の株は非感性となりうる(EUCAST:MIC distributions and ECOFFs〈http://www.eucast.org/mic_distributions_and_ecoffs/〉)。よって,厳重な対策を取るべき一例目の把握すらも,ときに困難である。各医療機関で専門家の助言を適宜得ながら,地域・施設の疫学的状況,自施設の検査体制にあった対応を検討する他ないが,将来においては,簡便で汎用性の高い耐性菌検査の進歩と普及に期待するところである。