第 III 部 治療における最近の新薬の位置付け~新薬の広場~
免疫抑制剤 ~多発性硬化症におけるフィンゴリモド塩酸塩の治療効果と課題~
吉村怜
1
,
吉良潤一
2
1九州大学大学院医学研究院神経内科学
2九州大学大学院医学研究院神経内科学 教授
pp.321-329
発行日 2013年1月31日
Published Date 2013/1/31
DOI https://doi.org/10.20837/1201313321
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多発性硬化症(MS)の再発予防・進行抑制治療薬として,わが国ではこれまで 自己注射を行う必要のあるインターフェロンβ(IFN-β)に限定されていた。しかし,経口投与が可能なフィンゴリモド(イムセラ®/ジレニア®)が,再発寛解型MS患者を対象とした国内外の臨床試験で優れた再発抑制効果を示したため,2011年9月に日本でも新規治療薬として承認された。フィンゴリモドは,リンパ球のリンパ節の移出に必要なスフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P1受容体)を内在化させ,セントラルメモリーT細胞のリンパ節からの移出を抑制する。自己反応性リンパ球は,セントラルメモリーT細胞に含まれていると考えられており,これによりMSの再発抑制効果を発現する。しかし,同時にエフェクターT細胞の再生産に必要なセントラルメモリーT細胞をリンパ節にとどめることから,長期の免疫抑制作用による副作用を慎重に観察する必要がある。フィンゴリモドは,IFN-β-1a(アボネックス®)を有意に上回る再発抑制効果が示された上に,比較的安全で経口内服薬であることから,MSの有用な治療薬になるものと考えられる。