循環平衡理論に基づいた循環管理～基礎から症例検討，循環シミュレータまで～

Hemodynamic management based on the circulatory equilibrium framework

はじめに

　全身麻酔下において患者の循環動態は出血や麻酔薬・血管作動薬の影響などによりダイナミックに変化する。手術中の不安定な血行動態は患者の生命予後に直結するため，麻酔科医は患者の状態を迅速に理解し，病態に応じた適切な管理を行う必要がある。一般的に多くの手術における循環管理は，患者の心拍数や血圧，動脈圧波形，呼吸性変動の有無，尿量や皮膚温などの複数の生体情報を基に麻酔科医の経験に基づいて行われている。しかし，麻酔科専門医であっても複雑な血行動態に直面した際に，循環動態をどのように理解し，管理すればよいのか悩む場面が時に存在する。本論文では，循環動態を理解するための基盤となる心室の圧容量曲線（pressure-volume loop：PV loop）と循環平衡理論の概念を解説し，さらに複雑な血行動態においても病態把握に役立ち，治療の予測，最適な循環管理への道標となりうる循環シミュレータについて触れる。