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はじめに
国際航空運送協会(International Air Transport Association:IATA)の安全報告書によると,2017年から2021年の世界のジェット旅客機の死亡事故発生率は,100万フライトあたり約0.1件という水準である。この水準は,航空業界の先人から続く安全のための取り組みの賜物といえる。ジェット旅客機による航空輸送が始まって約70年経つが,黎明期のジェット旅客機の事故発生率は,現在と比較して桁違いに高かった。当時の事故原因は,プロペラ機からジェット機に移行したパイロットの知識や操縦技術の不足や,航空機の耐久性や信頼性の低さなどの技術的な要因であった。したがって当時の安全の取り組みは “技術的な改善” に向けられ,これによって1970年代にかけて事故率は大幅に減少していった。
1970年代からの安全の取り組みは,“ヒューマンエラー” に向けられるようになった。このころの航空事故を分析すると,多くの事故においてパイロットのヒューマンエラーが要因として関与していることが明らかになってきたからである。その後,ヒューマンエラーに対処するためのパイロットへのトレーニングを実施したり,さまざまな安全装備や安全施策を導入したりするなどの組織的な取り組みにより事故率はさらに減少した。
そして,今日のパイロットへのトレーニングは “予想外の事態への対処” に向けられるようになっている。航空機やその航行を支援するシステムの高度な自動化により,航行の信頼性が高まるとともにパイロットのワークロードが軽減され,安全性はさらに高まっている。しかし,自動化されているがゆえに,ごくまれに発生する予想外の航空機の事態において,パイロットが状況の認識を喪失し,対処を誤り事故に至るというケースが注目されるようになったためである。
航空会社のパイロットのトレーニングは各国の法規に従い実施されており,その法規は国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization:ICAO)の世界基準に基づいている。時代とともに変化する安全のための課題に対し,パイロットのトレーニングの世界基準も変化してきている。本論文では,航空輸送の黎明期から2010年前後にかけての世界のパイロットのトレーニングの変遷とその概要,そして,2000年代になって認識された新たな課題について解説する。
Trainings for airline pilots are conducted in accordance with the laws and regulations of each country, which are based on the global standards of the International Civil Aviation Organization(ICAO). As safety issues have changed over time, global standards for pilot trainings have also changed. This article provides an overview of the evolution of pilot training around the world.
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