特集 発生から紐解く 胎児超音波診断アトラス [Web動画付]
企画者のことば
企画者のことば—母児の絆—
松村 謙臣
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1近畿大学医学部産科婦人科学教室
発行日 2020年11月30日
Published Date 2020/11/30
DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000001474
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もうすぐあの東日本大震災から10年になる。あまりの惨状に心を痛め,当時勤務していた大学病院に日本産科婦人科学会からボランティアの依頼があった際,手挙げして,震災から2週間あまり経った頃,石巻赤十字病院の診療を手伝いに行かせてもらった。病院の周辺は震災の傷跡が色濃く残り,道路はひび割れ,瓦礫がいたるところに積み上げられていた。病院に到着したとき,私が行った頃よりももっと大変な状況下で先陣を切って手伝いに来られていた昭和大学の先生から申し送りを受けた。これまで通っていた産科医院がなくなってしまった妊婦さんたちは,一度水浸しになってゴワゴワになった母子手帳をおずおずと出してこられた。私は,よくぞここまで生きてたどり着かれた,という思いで,ひたすら妊婦健診をし,そして分娩の立ち会いをした。妊婦さんたちにとって,家族や知人を失った悲しみのなかで,お腹の赤ちゃんは希望の源であり,生まれてくる赤ちゃんは新たな明日を生きるためのかげがえのない存在であった。
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