特集 着床前診断—現状と近未来の方向性—
各論
3.単一遺伝子病に対する着床前診断(PGT-M)の対象と課題
末岡 浩
1
K. Sueoka
1
1慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター
pp.829-834
発行日 2020年8月1日
Published Date 2020/8/1
DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000001358
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着床前遺伝子診断のなかで本来の目的であった単一遺伝子病の保因者を対象として行われるものをPGT-Mと呼称している。対象となる各疾患およびその遺伝学的情報は,極めて特殊性が高く,専門的知識が要求され,実施の際には疾患に関する専門的な遺伝カウンセリングが強く求められる。生検した少数の細胞から抽出した稀少遺伝子に対して,① 遺伝子増幅,② 遺伝子解析の2段階のプロセスに遺伝子型特有の技術が必要となる。特にPGT-Mにおいては,増幅した遺伝子に対して各遺伝子型に対応する解析法で診断を行う必要があり,基本的に家系によって異なる多様な遺伝子型に対してテーラーメイドに対応することが求められる。着床前遺伝子診断(PGT)における最大の技術的課題は,稀少生検細胞からのDNAを鋳型として診断を行わざるをえないことに集約される。診断が不可能または誤診断につながる理由として,① サンプリングエラー,② DNA抽出操作時の遺失,③ 生検細胞がフラグメンテーションである場合,④ 遺伝子の増幅不良,⑤ 片側アレルの増幅不良によるアレルドロップアウト(ADO)などが挙げられる。本来のPGTの目的は,重篤な遺伝病に対して次世代への疾患の伝播を防ぐことである。その一方で,あらゆる要望に対して適応を広げることには異論が多い。今後の発展のなかで社会の意見に耳を傾け,コンセンサスを得る努力も求められるであろう。
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