人工股関節置換術における静脈血栓塞栓症対策

Prophylactic options for deep venous thrombosis（DVT）following total hip arthroplasty

要旨：人工股関節置換術（THA）は肺血栓塞栓症（PTE）を合併しやすいハイリスク手術の一つである。ショック状態に至ったPTEは救命処置にかかわらず，その致死率は高い。致死性PTEを防ぐには周術期における深部静脈血栓症（DVT）の発生を抑えることが有効とされる。DVT発生には下腿筋静脈の血流停滞，血管内皮細胞の障害，血液凝固能の亢進が関与している。このため術前の理学療法介入や周術期の弾性ストッキング装着および間欠的空気圧迫法の併用，術後の低分子量ヘパリンの投与，早期離床や早期歩行の励行，離床後のⅩa阻害薬などが発生予防に推奨される。一方で抗凝固療法は時に出血性合併症や大量出血の恐れを伴う。DVT発生リスクの低減と同時に出血性合併症を常に念頭に置き，個々の症例に応じたDVT対策が求められる。