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膵臓は腹腔動幹・総肝動脈・脾動静脈・上腸間膜動脈などに囲まれ,また,上腸間膜静脈・門脈を取り囲むように存在し複雑な解剖学的特徴を有する。また,内・外分泌機能を有し,その生理学的機能を維持するためにできるだけ膵実質を温存することが望ましいが1),一方で,膵外分泌腺である膵切除後の膵液瘻はときに致命的な仮性動脈瘤形成や後出血の原因となり得る。これら膵臓の解剖学的・生理学的・病理学的特徴により,他の消化管手術と比べ,膵切除術は侵襲の大きな手術となり得る。手術の低侵襲化を求め,海外では1990年代前半から腹腔鏡下膵切除術が導入され,2000年頃にはロボット支援膵切除術が試みられるようになった2)。わが国では,膵体尾部切除術(distal pancreatectomy:DP)や膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy:PD)のような高難度手術に対する腹腔鏡手術導入は安全性への懸念もあり,膵臓領域における内視鏡外科手術〔低侵襲手術(minimally invasive surgery;MIS)〕は世界に比べ遅れをとった。ようやく2012年に「腹腔鏡下膵体尾部切除術(laparoscopic distal pancreatectomy;LDP)」が「原則としてリンパ節郭清を伴わないもの」という条件付きで保険収載され,2016年には限定条件が「原則として周辺臓器および脈管の合併切除を伴わないもの」に変更となり,膵癌に対する適応拡大が認められた。また,同年,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術が「原則として脈管の合併切除およびリンパ節郭清切除を伴わないもの」という条件付きで保険収載された。2020年には,ロボット支援膵切除術〔膵体尾部腫瘍切除術(robot-assisted distal pancreatectomy;RDP),膵頭部腫瘍切除術(robot-assisted pancreaticoduodenectomy;RPD)〕が保険収載され,施設基準を満たす場合は,PD,DPに関しては,他臓器合併切除を必要とするもの以外は基本的にすべてMISで行うことが可能となった。内視鏡外科手術では,高画質画像で得られる拡大視効果により,微細な解剖学的構造の認識が得られ,繊細な手術操作を可能とする。膵の周囲にはさまざまな膜や層に加え規則的な走行を示す神経・線維組織が存在するため3),膵臓領域においてMISはより確実性の高い,繊細かつ巧緻な膵切除へ導く可能性がある。今回,当院における膵癌に対するLDPの実際の手技を紹介し,腹腔鏡手術の立場から,DPについての考えを述べる。
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