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軽度の眼球打撲を契機に片眼の視力低下を訴えた詐病あるいは心因性視覚障害が疑われた症例を経験したので報告する。患者は50代男性。受診3週前,医療関係施設での仕事中に施設利用者の腕が左眼眼瞼に軽く当たった後から視力低下を自覚したため,近医を受診した。視力は右1.2(矯正不能),左0.5(矯正不能),対光反応は正常で相対的瞳孔求心路障害はなく,経過観察された。頭部MRI検査を行ったが異常はなく,受診前日には左眼視力が0.15(矯正不能)と低下したため,精査目的に当院を紹介受診した。視力は右1.2(1.2×+1.50D),左0.3(0.3×+1.50D −1.50D Ax55°)であった。直接および間接対光反応は迅速で,相対的瞳孔求心路障害はなかった。眼位は正位で,前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった。Goldmann視野検査で,両眼とも求心性視野狭窄を呈していたが,中心は右眼ではI/1a,左眼ではI/2cで反応が得られていた。光干渉断層計で網膜神経線維層厚,網膜神経節細胞層厚は正常であった。頭部MRIで異常所見はなかった。本人の左眼視力低下の訴えは強かったが,それを裏づける他覚的所見に乏しいことから,心因性視覚障害あるいは詐病を疑った。そのため,再診時の視力検査では両眼開放視力検査を計画することとした。完全屈折矯正レンズの上に,視力良好眼である右眼に+3.00Dレンズを付加した状態で視力測定を行った。その結果,左眼視力は付加前では(0.4×+1.25D −1.50D Ax70°)であったが,付加後は(1.2×+1.25D −1.00D Ax70°)が得られた。1か月後に施行したGoldmann視野検査では両眼とも求心性視野狭窄を呈していたが,中心は両眼ともI/1cで反応が得られていた。この時点で休業補償に関する診断書作成の希望が伝えられ,詐病の可能性が高いと診断した。健眼への+3.00Dレンズ付加による不完全遮閉を用いた両眼開放視力検査は,詐病や心因性視覚障害の診断に有用であった。

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