第2特集 看護学生論文─入選エッセイ・論文の発表
エッセイ部門
光
志氣 智史
1
1長崎市医師会看護専門学校准看護科2年
pp.668-669
発行日 2012年8月25日
Published Date 2012/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102154
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その方Aさんに出会ったのは2年生の秋だった。Aさんは80歳を超える女性で右大腿骨頸部骨折で入院していた。入院時のカルテには「認知症あり,自力での寝返り不可」と記載があり,ほぼ寝たきりの患者だと私は認識していた。Aさんの入院していた病棟は回復期病棟であった。回復期とは疾病や外傷,手術などによって生命の危機的状況にある急性期から脱し,身体の治癒過程が回復に向かって進行している時期である。病棟の看護師によると,この病棟のほとんどの患者は3か月以内に退院するということだったが,私は「この人が本当に回復できるのだろうか?」と疑問に感じていた。
受け持った初日,朝の清拭を行うために看護師が患者に「横向きになってみましょうか?」と促すとAさんは自力で右側臥位をとった。入院時はできなかったが,毎日少しずつ促すことでできるようになったのだという。自力で寝返りができなかった患者が自力で寝返りをうてるようになるということは,健常者からするとピンとこないかもしれないが凄いことである。しかし,昼のリハビリではさらに驚かされた。理学療法士の助けをかりて立位をとる訓練をしているではないか。自分の力だけで立つことはできないため,サポーターを使うことで立位を保持していた。右足が痛むらしく時折,「やめたい」といったような表情を見せながらも,その日とった立位の時間は前日のものを更新していた。
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